あなたの会社も対象?物流の「2024年問題」対策で始まった新法、知らなきゃマズい5つのポイント
#その他
2025.10.16
Introduction
物流業界の「2024年問題」は、多くの企業にとってトラック運送会社だけの課題だと考えられがちです。しかし、その認識はもはや通用しません。この問題への対策として「物資の流通の効率化に関する法律」が施行されましたが、驚くべきことに、この法律が本当にメスを入れるのは物流事業者ではなく、輸送サービスを利用する「荷主」—つまり、あなたの会社なのです。本記事では、すべてのビジネスリーダーが理解しておくべき、この新法に関する最も重要で意外な5つのポイントを解説します。
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主役は運送会社じゃない?新法の本当のターゲットは「荷主」である、あなた
新法の最大の特徴は、その規制の矛先が荷主に向いている点です。令和7年4月1日より、トラック運送を利用するすべての「荷主」に対して、「努力義務」が課されることになりました。
ここで言う「荷主」とは、荷物を発送する「発荷主」だけでなく、荷物を受け取る「着荷主」も含まれます。つまり、トラック輸送で商品を仕入れたり、納品を受けたりするほぼすべての事業者が対象となります。
具体的に求められる努力義務は、以下の3点です。
- 積載効率の向上等:実態に即したリードタイムの確保や、複数の荷主との共同配送、繁閑差を平準化するための出荷・納入量の調整など。
- 荷待ち時間の短縮:トラック予約受付システムの導入や、混雑時間を避けた納品日時の指定などによる到着時刻の分散。
- 荷役等時間の短縮:パレット等の輸送用器具の活用による荷役作業の効率化や、検品・返品水準の合理化、フォークリフト等の適切な配置によるドライバーの負担軽減など。
これは、大手メーカーや小売業だけの話ではありません。自社の事業に物品の輸送が関わる以上、この新しい義務から逃れることはできないのです。
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年間9万トンが運命の分かれ道。「特定荷主」の重い責任
努力義務はすべての荷主が対象ですが、さらに厳しい規制が待ち受けています。令和8年4月1日からは、一定規模以上の荷主が「特定荷主」として指定され、より重い責任を負うことになります。
その運命を分ける基準は、年間取扱貨物重量が9万トン以上であること。しかし、ここで極めて重要なのは、荷主が「第一種」と「第二種」に分類され、それぞれで重量が算定される点です。運送契約を締結する者は「特定第一種荷主」、契約はしないが貨物の引き渡し・受け取りを行う者は「特定第二種荷主」となり、どちらか一方でも基準を超えれば指定対象となります。
この基準を超える事業者は「特定荷主」に指定され、以下の義務が法的に課されます。
- 中長期計画の作成・提出:物流効率化に向けた具体的な計画を作り、国に提出する義務。
- 定期報告書の提出:計画の進捗状況などを毎年報告する義務。
- 物流統括管理者の選任:物流全体を管理する責任者を任命する義務。
これらの義務を怠ったり、取り組みが不十分だと判断されたりした場合には、国が勧告・命令を実施することも可能となります。これは単なる努力目標ではなく、企業の経営に直接影響を与える強制力を持った規制です。
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役員クラスが必須に?「物流統括管理者」の新設義務
「特定荷主」に課される義務の中でも、特に注目すべきは「物流統括管理者」の選任です。これは単なる担当者を置けばよいというものではありません。法律では、その役割について次のように厳格に定められています。
物流統括管理者は、特定荷主が行う事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者をもって充てなければならない。
この条文が意味するのは、物流統括管理者は名目上のポジションではなく、会社の経営上の重要な意思決定に関与する役員クラスの人物でなければならないということです。いわゆるCLO(Chief Logistics Officer)のような、経営幹部としての役割が期待されています。具体的には、この管理者には中長期計画の作成、ドライバーの負荷を軽減するための事業運営方針の策定、そしてDX化や物流標準化に向けた設備投資計画の策定・実施といった、経営の中核に関わる業務を統括することが求められます。
特定荷主に指定された事業者は、通知を受けた後「遅滞なく」この物流統括管理者を選任し、国に届け出る必要があります。
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なぜ法律が必要?ドライバーは1日のうち3時間以上を「待機」と「荷役」に費やしている現実
なぜ今、これほど荷主に厳しい法律が必要なのでしょうか。その背景には、物流現場の非効率な実態があります。
ある調査によると、トラックドライバーの平均拘束時間11時間46分のうち、運転以外の時間に多くが費やされていることがわかっています。その内訳を見てみましょう。
- 荷待(待機時間):1時間28分
- 荷役(積込・積卸時間):1時間34分
これらを合計すると、3時間以上もの時間が「荷待ち」と「荷役」という、荷主側の都合で発生する作業に費やされているのです。この非効率な時間がドライバーの長時間労働の温床となり、物流全体の生産性を著しく低下させています。新法がパレット利用や予約システムの導入を促すのは、まさにこの根本的な課題を解決するためなのです。
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自社の貨物重量、把握していますか?すぐに始めるべき重量算定と期限
自社が「特定荷主」に該当するかどうかを判断するためには、まず自社の年間取扱貨物重量を正確に把握しなければなりません。
この判断の基準となるのは、**2025年度(2025年4月~2026年3月)**の1年間の取扱貨物重量です。この期間の実績が9万トンを超えた場合、特定荷主として国に届け出る必要があります。
そして、その届出の期限は目前に迫っています。初年度となる2026年度の提出締切は5月末日です。
重量の算定方法については、法令で複数の正式な手法が定められており、例えば貨物を実際に計測する「実測」、容積を重量に換算する方法のほか、「対象貨物の売上額又は仕入額」から標準単価で除して算出する方法なども認められています。これは単なる自己申告ではなく、根拠に基づいた正式な手続きです。今から準備を始めなければ、期限に間に合わない可能性があります。
Conclusion
物流効率化に関する新法は、単なる規制強化ではありません。これは、これまでコスト削減の対象と見なされがちだった物流を、企業の法的コンプライアンス、そして日本の社会インフラを維持するための経営責任として捉え直す、根本的なパラダイムシフトを求めるものです。すべての荷主企業が、この変化に主体的に関与することが求められています。
あなたの会社では、この変化に対応するために、まず何から始めますか?