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「少しだけだから」が事故を生む。トラックの輪留めと転動事故をあらためて考える

#コラム

2026.08.13

「少しだけだから」が事故を生む。トラックの輪留めと転動事故をあらためて考える

工場や物流現場で日常的に目にするトラック。
荷物を積み降ろしするために停車し、ドライバーが運転席を離れる――。毎日繰り返される、ごく普通の光景です。

しかし、そのトラックが無人のまま動き出したらどうなるでしょうか。
数トン、場合によっては積荷を含めて十数トンを超える車両が動き出せば、人の力で止めることはほぼ不可能です。

「平らな場所だから大丈夫」
「荷降ろしする数分だけだから」
「パーキングブレーキをかけているから」

こうした油断を防ぐために重要なのが、トラックの逸走防止措置です。
その中でも、非常に単純でありながら大きな効果を持つのが「輪留め(輪止め)」です。

トラックは停車していても「絶対に動かない」とは限らない

見た目には完全に平らな駐車場所でも、実際には排水のための勾配など、わずかな傾斜が設けられている場合があります。
トラックは車両重量が大きいため、ほんのわずかな傾斜でも、一度動き始めれば大きな力が発生します。

また荷役中には、

  • フォークリフトが荷台へ乗り込む
  • 重量物を積み降ろしする
  • 荷物の重心が変化する
  • 車体が荷役の衝撃で揺れる

といったこともあります。
つまり、「駐車したときには止まっていた」ことと、「荷役中も絶対に動かない」ことは同じではありません。

厚生労働省の「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」でも、停車中の貨物自動車について、逸走防止措置を確実に行うことが求められています。

法令でも求められている「逸走防止」

労働安全衛生規則では、貨物自動車も「車両系荷役運搬機械等」に含まれています。
そして、運転者が運転位置から離れる場合には、
原動機を停止し、停止状態を保持するためのブレーキを確実にかけるなど、車両の逸走を防止する措置を講じること
が定められています。

ここで注意したいのは、「法律に輪留めという文字があるから使う」というだけの話ではないことです。
重要なのは、
「トラックが勝手に動き出さない状態を確実につくる」
ということです。

厚生労働省系の荷役災害防止チェックリストなどでは、降車時の逸走防止措置として、

  • パーキングブレーキ
  • エンジン停止
  • ギアロック
  • 輪止め

という「4点セット」が示されています。
どれか一つに頼るのではなく、複数の対策を重ねる。
これが安全管理の基本です。

「輪留めを忘れただけ」で済まない理由

もし無人のトラックが動き出し、人を死傷させる事故につながれば、単なる社内ルール違反では終わりません。
事故の状況や過失の内容によっては刑事責任、民事上の損害賠償責任、労働安全衛生上の責任などが問題になる可能性があります。

自動車の運転上必要な注意を怠って人を死傷させた場合について、自動車運転処罰法では過失運転致死傷罪が定められており、法定刑は7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
ただし、「輪留めをしなかったから必ずこの罪になる」という単純なものではありません。

どの法律が適用され、誰がどのような責任を負うかは、事故の状況や車両の状態、会社の管理体制などによって個別に判断されます。
だからこそ重要なのは、
「事故が起きた後に責任を考える」のではなく、「事故そのものを起こさない仕組みをつくる」ことです。

荷役現場では「ドライバー任せ」にしない

ここは、トラックを所有する運送会社だけの問題ではありません。
工場、倉庫、処理施設など、トラックを受け入れる側にも重要な役割があります。

厚生労働省の荷役作業安全ガイドラインでは、荷役作業の事故防止について、陸運事業者だけでなく、荷主や配送先などが連携して取り組むことが求められています。

例えば工場へトラックが入場し、フォークリフトで荷降ろしを行う場合。
「輪留めはドライバーがするもの」
だけで終わらせず、
輪留めが設置されていることを確認してから荷役を開始する
というルールにすれば、安全性はさらに高まります。

ドライバーが忘れることはあります。
だからこそ、
人の注意力だけに頼らず、確認する仕組みで事故を防ぐ。
これが企業の安全管理です。

動き始めたトラックを人が止めようとしてはいけない

もう一つ、非常に重要なことがあります。
万が一、無人のトラックが動き出した場合です。
「止めなければ!」
と思い、とっさに車両へ近づいたり、運転席へ飛び乗ろうとしたりするかもしれません。
しかし、これは非常に危険です。

厚生労働省のガイドラインでも、停車中の貨物自動車が動き出した場合には、止めようとしたり、運転席に乗り込もうとしたりしないことが示されています。
大型車両と人間の力では比較になりません。
トラックと壁の間に挟まれたり、転倒して車輪に巻き込まれたりすれば、重大事故につながります。

車両が動き始めてから止めるのではなく、
動き出さない状態を最初につくる。
これが最も重要です。

輪留めは「数秒でできる安全装置」

輪留めの設置には、それほど時間はかかりません。
停車したら、
パーキングブレーキ → エンジン停止 → ギアの確認 → 輪留め
ここまでを一連の動作にしてしまうことが重要です。

また現場によっては、

  • 輪留めを左右確認しやすい位置に設置する
  • 輪留め同士をロープなどで連結する
  • 輪留め使用中であることが運転席から分かる仕組みにする
  • 発進前確認に「輪留め回収」を組み込む

など、設置忘れだけでなく「外し忘れ」「置き忘れ」を防ぐ工夫も有効です。
ただし、輪留めの位置や個数については車両、傾斜、荷役方法、施設条件などによって異なります。
各社の車両特性や現場のリスクを確認したうえで、自社の標準作業として具体的に決めておくことが大切です。

「平坦地だから不要」をなくす

安全ルールで怖いのは例外です。
「坂道なら輪留めをする」
「荷物が重いときだけ使う」
「長時間停車するときだけ使う」
このような条件をつけると、現場では必ず判断が入ります。
そして、
「ここなら大丈夫だろう」
という判断が生まれます。

事故を防ぐには、できるだけ判断を減らすこと。
例えば、
「構内でドライバーが運転席を離れる場合は、原則として輪留めを使用する」
と社内ルールを明確にする方が運用しやすくなります。
ルールが単純であれば、新人にも協力会社にも説明しやすく、確認する側にも迷いがありません。

数秒の手間を惜しまない

安全対策の多くは、事故が起きていないときほど面倒に感じるものです。
ヘルメットをかぶる。
安全帯を確認する。
指差し確認をする。
輪留めを置く。
一つひとつは小さな行動です。

しかし事故が発生した後に、
「あのとき輪留めをしていれば」
と悔やんでも、時間を戻すことはできません。

トラックを停めた。
運転席を離れる。
その前に輪留め。
わずか数秒の行動が、ドライバー自身、現場で働く人、会社、そして周囲の人の安全を守ります。

私たちも日常の作業をあらためて見直し、「いつもやっているから大丈夫」ではなく、基本動作を一つずつ確実に積み重ねていきたいと思います。

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