~今、企業が見直すべき防災体制とは~
「避難して終わり」では守れない命がある
地震や火災を想定した避難訓練は、多くの会社や工場、事業所で実施されています。
「身の安全を確保する。」
「速やかに避難する。」
「点呼を行い、全員の無事を確認する。」
ここまでは、多くの企業で訓練され、定着していることでしょう。
しかし、今回の痛ましい事故は、私達にもう一つの重要な課題を突き付けました。
避難した後、誰が安全を確認し、誰が再入場や業務再開を判断するのか。
この「避難後」の対応まで具体的に定め、訓練している企業は、決して多くないのではないでしょうか。
本当の危険は「揺れが止まった後」にある
地震で最も恐ろしいのは、建物の倒壊だけではありません。
揺れが収まった後にも、
- ガス漏えい
- 火災
- 爆発
- 電気設備の異常
- 建物の一部損壊・崩落
- 危険物や薬品の漏えい
など、さまざまな二次災害が発生する可能性があります。
建物が残っているから安全。
外から見て異常がないから安全。
そう判断してしまうことが、重大な事故につながることもあります。
「揺れが止まった=安全」ではありません。
「少しだけ」が命を奪うこともある
災害時、人は責任感から行動します。
「財布だけ取ってこよう。」
「パソコンだけ確認しよう。」
「重要書類だけ。」
「設備だけ停止しよう。」
どれも数分で終わるように思えます。
しかし、その数分の間に二次災害が発生することがあります。
設備は修理できます。
書類は再発行できるかもしれません。
事業も時間をかければ立て直すことができます。
しかし、人の命だけは決して取り戻すことができません。
管理者の一言が、人を危険へ向かわせることがある
災害時、管理者は会社を守ろうという責任感から、
「設備は大丈夫か。」
「商品は無事か。」
「重要なデータは。」
と考えることがあります。
そして、
「少しだけ確認してきて。」
「すぐ戻ってくればいいから。」
そんな一言を掛けてしまうことがあるかもしれません。
しかし、従業員はその言葉を「お願い」ではなく「業務上の指示」と受け止めます。
だからこそ、災害時に最優先すべきものは会社の財産ではありません。
従業員一人ひとりの命です。
マニュアルは「あること」ではなく、「伝わっていること」が重要
今回の事故では、報道によると、運営会社には災害時の対応マニュアルが整備されており、安全確認が完了するまで立ち入りや営業再開を行わない趣旨のルールが定められていました。
一方で、現場ではそのルールどおりの対応が十分に徹底されなかった可能性も指摘されています。
このことは、多くの企業に共通する課題を示しています。
防災マニュアルは、作成することが目的ではありません。
責任者だけが知っていても意味はありません。
管理職だけが理解していても十分ではありません。
現場で働く一人ひとりが、
- 誰が安全確認を行うのか。
- 誰の許可があるまで再入場してはいけないのか。
- 誰が業務再開を判断するのか。
これらを理解し、災害時に迷わず行動できて初めて、マニュアルは機能します。
避難訓練で足りない「その先」
避難訓練の多くは、避難できた時点で終了します。
しかし、今回の事故は、実際の災害では避難後の判断こそが重要であることを私達に痛感させました。
避難した後には、
- 建物へ戻ってよいのか。
- 誰が安全確認を行うのか。
- 電気・ガス・設備の点検は終わっているのか。
- 関係機関との確認は必要か。
- 誰が再入場を許可するのか。
- 誰が業務再開を決定するのか。
こうした判断が続きます。
だからこそ、防災訓練も避難することだけではなく、「安全確認」「再入場」「業務再開」までを一つの流れとして実施する必要があります。
事故を教訓として終わらせないために
事故が起きるたびに、
「想定していなかった。」
「まさかこんなことになるとは思わなかった。」
という言葉が聞かれます。
しかし、事故から学ばなければ、同じ悲劇は繰り返されます。
企業の責任者に求められるのは、この事故を他人事として見るのではなく、
「もし自分の会社だったら。」
「もし自分が判断する立場だったら。」
と、自分ごととして考えることです。
防災は、設備やマニュアルだけで成り立つものではありません。
一人ひとりの意識と、組織全体で共通認識を持つことによって初めて機能します。
最後に
災害は防ぐことができません。
しかし、その後の判断によって防げる事故はあります。
今回の痛ましい事故で犠牲となられた方々、そして深い悲しみの中におられるご家族の皆様に、心よりお悔やみ申し上げます。
私達も、この事故を決して他人事とは考えません。
防災マニュアルが「ある」ことに安心するのではなく、それが現場の一人ひとりまで理解され、災害時に実践できる内容になっているかを改めて見直します。
また、避難訓練についても、「避難」で終わるのではなく、「安全確認」「再入場の判断」「業務再開の判断」までを含めた、より実践的な内容へと見直し、継続的に取り組んでまいります。
二度と同じような悲劇を繰り返さない。
そのためには、企業の責任者一人ひとりが事故を教訓として受け止め、自分ごととして考え、行動に移すことが何より重要です。
その積み重ねこそが、未来の命を守ることにつながると、私達は信じています。