廃棄物分析で見落としやすい採取の落とし穴
「そのサンプル、本当に全体を代表していますか?」
「分析結果を提出したので、廃棄物の性状は確認できています」
そう思っていたところ、実際に搬入された廃棄物が分析結果と大きく異なり、処理業者から確認の連絡が入った――。このような行き違いは、分析機関の測定ミスだけで起こるわけではありません。
意外と見落とされやすいのが、「何を、どこから、どのように採ったか」というサンプリングの問題です。
分析結果が正確でも、採取したサンプルが廃棄物全体を代表していなければ、その数値だけで全体を判断することは難しくなります。
分析機関が測定するのは、渡されたサンプル
分析機関は、持ち込まれた試料を決められた方法で測定します。しかし、その試料がタンク全体や保管ロット全体を代表しているかどうかまで、分析結果だけから判断できるとは限りません。
例えば、汚泥が入ったタンクでは、時間の経過によって次のような状態が生じることがあります。
- 上部に水分の多い層ができる
- 重い固形分が底に沈む
- 油分などが表面に浮く
- 成分の異なる層ができる
- 投入時期によって濃度が変わる
この状態で上部の液体だけを採取すれば、底部に沈んだ固形分や有害物質を十分に含まないサンプルになる可能性があります。反対に、底にたまった濃い部分だけを採れば、全体より高い濃度が出ることも考えられます。
どちらの結果も、採取した部分の分析値としては正しくても、タンク全体の状態を表しているとは限りません。
少量のサンプルに全体の情報を持たせる難しさ
液状の廃棄物だけでなく、固形状の廃棄物にも同じ問題があります。
廃棄物の山の表面だけを採る、複数あるドラム缶のうち一つだけを選ぶ、大きさの異なる破砕物から細かい部分だけを採る。このような採取方法では、保管されている廃棄物の一部しか反映できないことがあります。
環境省のWDSガイドラインでも、サンプルは処理方法を検討するための重要な情報としながら、沈殿分離している廃棄物の一部分だけを採取した場合には、処理方法を適切に評価できないことがあると注意を促しています。
また、サンプルはWDSに代わるものではなく、廃棄物の発生工程や成分情報を補う資料として位置づけられています。環境省「廃棄物情報の提供に関するガイドライン(第3版)」
まず「何のための分析か」を決める
適切な採取方法は、分析の目的によって変わります。
受入れ可能な廃棄物かを判断したいのか、有害物質の含有可能性を確認したいのか、処分基準への適合性を判定したいのか。それとも、工程変更前後の違いを把握したいのか。
目的が曖昧なまま「とりあえず一瓶採って分析する」と、必要な情報が得られないことがあります。
特に、法令上の基準への適合性を判定する場合は、対象となる廃棄物や分析項目に応じた公定法、告示、通知などを確認する必要があります。公的な検定方法でも、「施設から排出される代表的な試料を採取する」「数か所から採取して十分に均一化する」といった考え方が示されています。環境省「特別管理一般廃棄物及び特別管理産業廃棄物に係る基準の検定方法」
サンプル採取前に確認したいポイント
実際にサンプルを採る前には、次のような点を整理しておくと、分析機関や処理業者との相談がしやすくなります。
- 分析する目的と、結果を何の判断に使うのか
- 対象となるタンク、容器、保管場所、排出期間の範囲
- 廃棄物が均一か、沈殿・浮上・分離が起きていないか
- 製造ロットや投入時期によって成分が変わらないか
- どの位置、深さ、時間帯から採取するか
- 複数箇所の試料を混ぜるのか、別々に分析するのか
- 採取日時、場所、状態、採取者を記録しているか
- 揮発、変質、光、温度など保存中の影響がないか
複数箇所から採取した試料を混合し、平均的な状態を見る方法が適する場合もあります。一方で、濃度のばらつきや最大値を確認したい場合には、混ぜずに個別分析した方がよいこともあります。
また、性状が分からない廃液などを、均一化のために安易に混ぜるのは危険です。発熱、有毒ガス、発火などの可能性があるため、採取方法は処理業者や分析機関と事前に相談することが大切です。
「分析値」と「廃棄物の実態」をセットで伝える
サンプリングの精度を高めても、少量の試料だけで変動する廃棄物のすべてを表すことは簡単ではありません。
そこで役立つのが、分析結果に加えて、発生工程、使用薬品、排出頻度、性状の変動幅、タンクや容器の状態などをWDS等で伝えることです。写真や工程図、採取位置の記録も判断材料になります。
処理業者にとって知りたいのは、分析表に並んだ数字だけではありません。その数字が「いつ、どこから、どの状態で採ったサンプルの結果なのか」も重要な情報です。
次に分析を依頼するときは、採取した一瓶を見ながら、「この中身は、委託する廃棄物全体をどの程度表しているだろう」と考えてみる。
その確認が、受入れ後の行き違いや処理上のトラブルを減らす第一歩になります。
主な出典